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東京高等裁判所 平成11年(ネ)1129号 判決 1999年12月08日

控訴人(原審甲事件原告)

控訴人(原審乙事件原告)

デンソン株式会社

右代表者代表取締役

右両名訴訟代理人弁護士

小林和則

被控訴人(原審両事件被告)

相生精機株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

別城信太郎

鳩谷邦丸

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、原判決別紙目録一記載の形態の金型反転機を製造し、販売し、又は頒布してはならない。

3  被控訴人は、控訴人Aに対し、金一〇三万円及びこれに対する平成七年九月二六日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

4  被控訴人は、控訴人デンソン株式会社に対し、金六九一万二三〇六円及びこれに対する平成八年五月一四日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

5  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二  当事者の主張

当事者の主張の要点は、以下に付加するほかは、原判決の「第三 争点に関する当事者の主張」記載のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴人ら

原判決は、前示の均等物の要件(原判決三〇頁一一行~三二頁一行)のうち<3>「右のように置き換えることに、当業者が被告物件(一)の製造等の時点において容易に想到することができた」点に関して、本件考案と被告物件(一)とにおいて「金型反転機の高さ寸法を小さくしつつ、必要な扛重盤の回転モーメントを得るためには、駆動装置である油圧装置のシリンダーの先端部に連結されたロッドを扛重盤にどのように連結し、シリンダーの基端部をどのように支持枢着すべきかが重要な技術的な課題となる」(同三三頁一〇行~三四頁二行)と認定した上、本件考案と被告物件(一)とでは、左右の各扛重盤を回動させるための油圧シリンダーのロッドとの連結箇所が、扛重盤の下側の先端部分(被告物件(一))か中心部分(本件考案)かで相違するから、両者が右「技術的課題」を解決するための方法で大きく異なっていると判断し、被告物件(一)が同要件<3>に該当することを否定したが、これは誤りである。

すなわち、前記「技術的課題」を前提としても、本件考案のうち、油圧シリンダーの連結箇所を、扛重盤の下側の中心部分から先端部分にずらすことは、要は、取付け位置をずらして行くだけのことであって、当業者であれば容易に考えつくことである。そして、被告物件(一)において、その他の構造、すなわち、同一水平軸の左右に配置した扛重盤を、右水平軸に直立に位置した油圧シリンダーのロッドで押し上げることによって、水平位置から直立位置に回転させ、この左右の扛重盤で重たい金型を挟み込んでそのまま回転させるという構造は、本件考案と全く同一となっている。

また、両者は、「金型反転機の高さ寸法を小さくしつつ、必要な扛重盤の回転モーメントを得る」という技術課題を解決する方法として、物理学上も基本的に同一であり、扛重盤を回動させるエネルギーの総和も同一であるから、当業者である被控訴人が、平成六年七月時点で、本件考案の「扛重盤の基部下側」の部分を「扛重盤の先端(基端部の反対側)下側」に置き換えることを想到することは、極めて容易である。

二  被控訴人

控訴人らは、油圧シリンダーのロッドとの連結箇所に関して、「扛重盤の下側の先端部分(被告物件(一))か中心部分(本件考案)かで相違する」と主張するが、右連結箇所は、被告物件(一)では、扛重盤の下側の先端(基端部の反対側)であり、本件考案では、扛重盤を水平方向に見た場合の、水平軸側に近い部分(基部)の下側である。

そして、本件考案の先行技術(実開昭五二-一〇五二七七号考案)からみても、本件考案の本質的部分は、油圧シリンダーのロッドに連結される部分が各扛重盤の基部下側であるから、被告物件(一)の連結箇所がこれと異なる以上、その他の構造が問題とされるところではない。

理由

一  当裁判所も、控訴人らの本訴請求はいずれも理由がないものと判断する。

その理由は、当審における主張について、次に項を改めて説示するほか、原判決の「第四 当裁判所の判断」と同じであるから、これを引用する。

二  当審における主張について

控訴人らは、原判決が、被告物件(一)が前示均等物の要件<3>に該当することを否定したことが誤りである旨主張するが、その主張を採用することができないことは、原判決説示(原判決三〇頁七行~三七頁五行)のとおりである。

控訴人らは、油圧シリンダーのロッドとの連結箇所が、「扛重盤の下側の先端部分(被告物件(一))か中心部分(本件考案)かで相違する」ことを前提として、本件考案のうち、油圧シリンダーの連結箇所を扛重盤の下側の中心部分から先端部分にずらすことは、取付け位置をずらして行くだけのことであって、当業者であれば容易に考えつくことである旨主張する。

しかし、本件考案における油圧シリンダーの連結箇所は、扛重盤の下側の中心部分でなく、その実用新案登録請求の範囲に明記されるように「扛重盤の基部下側」であるから、右主張は、その前提において誤りがあり失当というほかない。しかも、前示説示のとおり、油圧シリンダーの先端部に連結されたロッドを扛重盤にどのように連結し、右シリンダーの基端部をどのように支持枢着すべきかは、本件考案及び被告物件(一)に共通する重要な技術的課題であり、本件考案はその解決のためにロッドの先端を扛重盤の基部下側に連結することを採用したものであって、油圧シリンダーのロッドとの連結箇所を変更するためは、シリンダー径や作動油圧もそれに即応して変更する必要が生じること等からみて、前記のような油圧シリンダーの連結箇所の置換えは、当業者が容易に想到できるものといい難いから、控訴人らの主張を採用する余地はない。

また、控訴人らは、本件考案と被告物件(一)とが、技術課題を解決する方法として物理学上も基本的に同一であり、扛重盤を回動させるエネルギーの総和も同一であるから、当業者による前示置換えは極めて容易である旨主張する。

しかしながら、本件考案と被告物件(一)における前示技術課題の解決方法が、仮に、物理学上、基本的に同一であり、扛重盤を回動させるエネルギーの総和も同一であるとしても、そのような学問上あるいは法則上の観点の問題と、当業者による前示置換えの容易性の問題が異なることは明らかであり、当業者にとってそのような構成上の変更が容易でないことは前示のとおりであるから、控訴人らのこの点に関する主張も採用することができない。

三  以上によれば、控訴人らの本訴請求はいずれも理由がなく、これを棄却した原判決は正当であって、控訴人らの本件控訴はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき、民事訴訟法六一条、六五条一項本文、六七条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

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